旅行記|散歩|KakiKakiMom's Travelog

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シャーロキアンを目指す旅③

2日目 予定は未定!幻の?スコットランド・ヤード

6月26日(土)
色々コースは考えたのだけれど、疲れが出てくる前に一番歩くのが長い行程を早めに済ませてしまおうということにして、今朝は「青いガーネット」コースと名づけた予定を実行に移すつもり。
7時少し前に目が覚めて、7時半に開く食堂へ行ったらまだ開いていなくて、数人の客がもう入り口に待っていた。5分くらい遅れて
開いた。部屋番号を聞かれて、席に案内される。
バイキング形式だ。飲み物を聞かれて、彼女はコーヒーを、私はティを頼む。彼女はいつもの習慣を壊したくないし、私は英国では朝食はティにすると決めている。だから滞在中は毎日、ティとコーヒーが一つずつテーブルに向き合うことになった。
パンは数種類、トースト用には白とブラウンブレッドがナフキンをかけて用意されている。自分でトースターを通して焼くのだ。
前回泊ったホテル・ミレニアム・グロスターはトーストは注文すると白かブラウンかを聞かれて、銀製のトースト立てに焼きたての薄いトーストを十枚も立てたものを運んできてくれた。
あれがとてもおいしかったので、ここでも一応トーストを選んでみた。結局最後の日までに他のパンよりトーストが一番おいしいことが判明した。パンばかりそうは食べられないから、毎日一種類ずつ確かめていたのだ。
ソーセージ、ベーコン、ハム、卵がスクランブルと目玉焼き、マッシュルームと、焼きトマト、生トマト、果物類に、オートミールとかコンフレーク類、ヨーグルト数種に、勿論ミルク、ジュース類、ジャム類と、ごく平凡。
音に聞く(ほら、英国では三度ブレックファーストを食べたいって言うあれよ)英国の朝食としちゃお粗末な感も無いではないけれど、ホテルのグレードが違うから目をつぶる。
今回はなんてったってウェルベック街に面したホテルなのだから、それだけでもう最高!8時半前にホテルを出る。外に出ると涼風が立って少し肌寒いくらい。でも、歩くのには絶好の感じだ。Tシャツに軽い上着を羽織ってが丁度いい。カバンには薄いレインコートと小さな傘、予定表と地図を持ちニコニコ顔が乗って用意万端?
「青いガーネット」コースは二つ考えた。
最初に考えたのは素直にドイルの本通り。
ピータースンがトテナム・コート・ロードからグッジ街へ曲がりガチョウを手に入れるくだりから始めて、ホームズが探索するとおりに歩く。
つまりベーカー街からパブ・アルファのモデルと言われている大英博物館前のパブ・ミュージアム・タバーンとパブ・ブラウを通って、勿論ここでは大英博物館だけでなく、ワトソンの通ったロンドン大学、ホームズの最初の開業の地・モンタギュー街、コナン・ドイルが住んだことのあるモンタギュー・プレイス23番、「ブナ屋敷」のヴァイオレット・ハンター嬢も住んでいたことだし、この辺りにをひと回りして、そして仕上げが「くねくねと道を辿って」コベントガーデン迄のコース。
テムズ川向こうの名前だけ出てくるブリクストンの方は省いて、時間によってはモーカー伯爵夫人が盗難にあったホテル・コスモポリタン(ホテル・クラリッジズがモデルだと言われる。このホテルは後で「ソア橋」でも「最後の挨拶」にも実名で出てくる)の方に戻ってアフタヌーン・ティにするか、又はコベント・ガーデンからそのまま進んで「瀕死の探偵」でホームズがワトソンと出かけたシンプソン・イン・ザ・ストランドで昼食をしてもいいし、パブ・アルファでパブ・ランチって手も有るしなぁ・・・「ま、多分時間的にはシンプソンだろうな。」なんて、お腹の都合も考えずに予定を立てたりしていた。
この予定なら午後の時間が大分残るだろうから、午後は「高名の依頼人コース」もやれるかもと。
しかし、その後で彼女が見つけてきた本にあった「青いガーネット」になりきって辿る道筋のシミュレーション(勿論これはその作家の想像によるものだけれど)に感心させられてしまった私たちは、たちまちにして予定を入れ替えてしまったのだ。
で、最終案となった「青いガーネット」コースはそのシュミレーション通りに歩いてみることだった。
きっちり急いでその通りに歩けば二時間半の道のりだと本には書いてあったけれど、寄り道したり、迷ったり、写真を撮ったり、余計な好奇心に引きずられたり(私たちだとこの可能性に満ちている)するだろうから、
「結局は一日仕事に限りなく近くなりそうだね。」
最初は省こうと思った川向こうも、実際はホームズの物語中にはとても沢山活躍の地として登場している。
ブリクストンもケニントンもそうだ。
「6つのナポレオン」などは現場の殆どが川向こうだ。だから行ければ行けたに越したことは無いのだ。
そういうわけで、絶好の天気の下で「青いガーネットになりきりコース」を歩みだした。
ヴィア街を通り、オックスフォード街を渡り、デーヴィス街を南下してブルック街に面したクラリッジズへ出た。
このホテルが物語中のホテル・コスモポリタンのモデルだと言われている。ここでガーネットは盗まれ犯人のライダーの手の中に収まって彼の姉の農場に運ばれるのだ。
ブリクストン通り117のその農場への道をこの作家は最短距離を想定している。この道を我々も行くのだ。アヴェリー・ロウ、ボンド街と・・・。
地図を片手にたまたまここを歩いていたらどちらからともなく?
「直ぐ横にブラウンズがあるね。」
途端に予定が一つ増えた!
共通してアガサ・クリスティのファンでもある吾ら、当然滞在中に「ホテル・バートラム」のモデルとも言われ、クリスティ自身も愛用したと言うあのホテルの「ドロウイング・ルームでアフタヌーン・ティをしたいね。」とは言っていたのだけれど、折角ここに居るのだから予約して行こうと一決。
案内本にはブラウンズは「要予約」と書いてあったので、今日行っておけば、「今日駄目でも滞在中のどの日かの予約が取れるかも知れないじゃない?」ってことだ。
「四時ぐらいに予約しておけば絶対間に合うよね。」
「そう、幾らなんでも、それ以上は時間はかからないでしょう。」
「ジャァ、寄っていこう。」
となったのだが、直ぐその裏側のはずのところでレーンに紛れ込んでしまった。
頭を寄せて地図を眺めていたら、直ぐ声が掛かった。「キャナイヘルプユー?アユートラブル?」とまさしく聞こえた。教科書どおりだ!
「ブラウンズを探している。」
と言うと、眉を寄せてうーんと唸って一生懸命教えてくれたのが、これはまたヤンキーっぽいおにいちゃんなのだから嬉しい。
イギリスを旅して地図を眺めて立ち止まっていると良く声が掛かって親切に教えてくれると何冊もの本に書いてあったけれど
「本当なんだね!」
そうして折角行った私たちはあんぐり口をあける羽目になった。
あるはずの建物はすっぽり覆われていて、工事中。
「どっかに何か書いてあるはずよ。」と探せば、「ブラウンズはただ今どこそこホテルで仮営業中」みたいに書いてあった。
もうがっかり二重唱。
それにしてもどんな風に生まれ変わるんだろう。それが問題だ。
「今度行った時、クリスティ当時の面影が無かったらどうしよう。」
「幾らなんでも、老舗が売り物なんだもの。外観は最低保つよ。へっ、今度があるの?」
「有るに決まってるでしょ!それにしても最悪だね。」
「まァまァ、クラリッジズも有るし、いざとなればランガムホテルだってあるじゃないの。次回があるならね。」
「クラリッジズはともかく、私たちのこの旅行者スタイルでランガムはいかがなものかな?モースタンタン大尉はともかく、ボヘミア王なんだよ。」
「それを言うなら、私でさえ天皇陛下のお泊りになったホテルに泊れたし、「カーファクス姫の失踪」ではフィリップ・グリーンだってランガムに泊ったよ。」
「ソリャァそうだけど。」
「寄り道ついでだからバーリントンアーケード通っていかない。」
バーリントンアーケードはまだ開業前で、ほとんど人の居ないアーケードのウィンドウを覗きたい放題に覗いていく。
とても綺麗なアーケードだ。
「買ってもいい物はあるけれど、買わなければいけない物は無い。」
がモットーの二人ずれだから、買物の予定はバーゲン真っ最中のロンドンを歩いていても無い。
そのまま王立美術院の前庭を通って予定のセント・ジェームズ街へ出た。昨日二度歩いて見付からなかったものが見付かるとは思えなかったけれど、やはりもう一度探しながら歩く。でもやはりこの通りには無かった。
宮殿前で衛兵の写真を撮って、推定どおりに宮殿横からセント・ジェームズ公園を通り抜けようとしたら、この道は聖火ランナーの儀式か何かのせいで通行禁止になっていた。
だから大回りになるけれどグリーンパークの方からバッキンガム宮殿の方を回ってグリーンパークの向こう側・クイーン・アンズ・ゲートへ出ようと思って長々とグリーン・パークを歩いていったのに、やはりバッキンガム宮殿へ折れる道は封鎖になっていた。こっちの方はどうやら完全封鎖。
諦めてガードの人に地図を出してここへ出たいのだけれど近道はどこかと、使いたくないたどたどしい英語で質問。
なんと、ホワイトホール街まで回って行けと言う。
「大規模封鎖じゃないの!」
ペル・メルを歩き出したら、急に暗くなって雨が降り出した。
この時期、ウインブルドンのテレビ桟敷観戦者でもある吾ら、この時期のロンドンのお天気はお馴染みである。驚かないから私は帽子を被っていることでもあるしそのまま歩く。彼女は一応私は出すねと軽い傘を開く。雨は降ってくるわ、大回りをしなければならないわで、折角ペル・メル街をトラファルガーの方へ歩いていると言うのに、ディオゲネス・クラブを特定するのも、マイクロフトの家に当てはめるのも忘れてしまった。
どうせだからとまたウォータールー・プレイスを左折してアンダー・リージェント街のマイバスセンターに立ち寄って、明日のカンタベリーへの日帰りバスツァーの予約を確認していくことにした。
このツァーは日曜にしか出ていない。エバン・エバンとかミュウバスとかでもこのツァーはしているのだけれど、出発がヴィクトリア駅のバスセンターで、あそこはごった返す上に私たちのホテルからでは不便なので、マイバスのツァーにしたのだ。
ここなら朝ホテルから三十分もみておけば十分歩いて間に合う。
予約は大丈夫で明日朝8時45分センターに集合。
「あ、そうだ。ウィンブルドンへ行かないでウィンブルドン土産グッズ買える所ありますか?」と彼女が聞く。
「向かいの三越でも、イギリスやでも置いていますよ。」
「それは助かったわ。ありがとう。ウィンブルドン土産頼まれちゃってさ。」と、後半は私に向かって照れくさそうに言った。
「そうよね。あなたがこの時期イギリスへ行くのにウィンブルドン行かないなんて!って思われるよね?」
おばさんテニスで知り合った私たち、一時期は「何時かはウィンブルドン観戦!」って思わないことも無いくらい熱中したけれど、私は夫の転勤途上で程よいグループを見つけられず脱落し、ご主人主導で始めた彼女は未だに二人でテニスコートに通っている。
「いいえ、私は自分がしないテニスなんて見に行く気はありません。そんな時間なんてあるわけ無いでしょ、この旅で。土産だなんて全く迷惑よ!」
「でもよかったじゃない、三越は明日の夕方ツァーから帰ってきた帰りにでも買い物できるし、イギリスやもハノーバー・スクエアだったわよね。ホテルの直ぐ近くじゃない。」
と、しゃべりながらも目はウォータールー・プレイスの辺りの角地でロイド銀行(コックス銀行)の跡を探している。
「なんかに跡地だっていうプレートが填まっているって読んだんだけれどなぁ。」
「あっち側ってことは無いかなぁ?私の地図にもこちら側に印をつけてはあるんだけれど、ないもの。」
と、きょろきょろ歩いていたらもうトラファルガー広場。
アドミラルティ・アーチのところからザ・マルの方に入れたらと思ったのだが、やっぱりここも封鎖。
「この道が主要道路だろうからやっぱりだね。」
と言ったところで、マイバスセンターを出たら晴れて青空が覗いていた空からまた急に大粒の雨が落ちてきた。
もうここまでに自己責任の寄り道が幾つも!おまけに予定外事故責任?の大きいのも1つ!!
「こんなに予定に穴が開いちゃったらやり直しをしなくちゃならないよ。」
「そうだね。セント・ジェームズ公園から外務省を見たいしね。」
古い写真でここの池から見た絶景のものがあるのだ。
この景色を見るという楽しみもあるので、セント・ジェームズ公園は外せないのだから、そこからまたやり直すことにして、天気も定まらなさそうだし、
「この辺から見て行っちゃおうか。その方が効率的かも。」
「まだ臨機応変が利く年齢の内にこれてよかった!じゃぁチャリングクロス、ノーサンバーランド、クレーブン・パス辺りを制覇しよ。」
臨機応変なのか、いい加減なのか、行き当たりばったりなのか異論はあろうが、トラファルガー広場からノーサンバーランド街に道を取る。
ノーサンバーランドはアヴェニューとストリートと二本があるし、クレーブンもストリートとパッセイジと二本あってこの通りがチャリング・クロス駅の南側の三角地帯で交差している。
シャーロック・ホームズ・パブは直ぐ見付かって「うふふ」顔で写真を撮り合った。

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〈写真 シャーロックホームズ・パブ お初に!〉

この三角地帯ではこれも古い「ビクトリア朝のロンドン」という写真集で「ノーサンバーランド街にあったトルコ風呂の煙突(蒸気の噴出口)」と言う写真を見ていたので、それもクレーブン・パスを中心に探してみた。
もうさすがに取り壊されたのだろうか、残念ながら見当たらなかった。
ホームズもワトソンもトルコ風呂に目が無かったって知っていました?
「高名の依頼人」はこのトルコ風呂から物語が始まっている。
たっぷり汗をかいてから寝椅子で休んでいるところなど、サウナ風呂だ。
「フランシス・カーファックス姫の失踪」ではホームズは「イギリス式のさっぱりする風呂では無くて何故ぐったり疲れるトルコ風呂にしたんだい?」とワトソンに聞いている。ワトソンの答えは「リューマチが出て、薬代わりに…」
だから特にワトソンはノーサンバーランドにあったトルコ風呂にずいぶん通ったのだと思われる。だがもうノーサンバーランドには残っていない。
しかしノーサンバーランド街にあると正典(シャーロッキアンはホームズの物語六十篇をこう呼ぶと聞いているので、私もいっぱしに使いますが、お許しを!)に書かれているノーサンバーランド・ホテルとグランド・ホテルは多分これだろうと言うのを見つけた。
「バスカヴィル家の犬」では、ヘンリー・バスカヴィルがノーザンバーランド・ホテルに、彼を付けねらうステイプルトン夫婦がクレイブン街のメクスバラ・プライベート・ホテルに泊っている。
「花嫁失踪事件」ではノーサンバーランド街の贅沢なホテルというのが出てくるし、「ギリシャ語通訳」にもノーサンバーランドあたりの大ホテルというのが出ている。
「高名の依頼人」でワトソンが新聞売り子の声でホームズが襲撃された事を知って驚愕したのはチャリング・クロス駅と直ぐその横のノーサンバーランド街に立つグランド・ホテルの間だったのだ。
ノーサンバーランドはまるでホテル街といった趣だ。
問題はその次に向かった初代のスコットランドヤードだった。
私の調べたところではこの建物は
「メトロポリタン・ポリス・オフィスとして1829年から1890年まで、グレイト・スコットランド・ヤード通りとホワイト・ホール・プレイスとの間のホワイト・ホール・プレイス4番地にあった。現在その建物(農業水産食糧庁)には「旧スコットランド・ヤード跡」の青プレート有り。1877年ホームズも探偵を開業してから13年間にわたってこの場所と関係があった筈。」なのだ。
ところがグレート・スコットランド・ヤード通りもホワイト・ホール・プレイスも見付かって、農業水産食糧庁の看板のあるビルも見付かったのに、そのビルをぐるりと回ってみてもどこにも肝心の青プレートが無いのだ。だから見つけたという気がしない。
しかも土曜日だった所為か人っ子一人通らない。もっとも通ったところで通じるように聞けたかどうかも分からないけれど。
念のためこれがそうだと写真を撮り、彼女が持参したチャールズ・ヴゥィニー著「シャーロック・ホームズの見たロンドン」に乗っている写真と比べてみたのだけれど、その写真のビルのアーチ部分が微妙に違っているのだ。
「修理したんじゃない?改修。」と、楽観的でいい加減な私。
「絶対プレートがあるはずだから安心できないよ。もう少しこの辺り探そう。」と言う完璧派の彼女。
で、ぐるぐるぐるぐるこのあたりを回って一つずつビルの壁を確認していく。何周目かにようやく彼女は諦める。
「おかしいわねぇ。カールトン・クラブもここもコックス銀行もプレートが無いなんて?」
「クライテリオン・バーのプレートも盗まれたって言うし。ビルの改築とか修繕の時とかに外したのかも知れないし、大体この本自体書かれてからもう何年も経っているんだから。」と私は慰め調というか、言い繕い調になってしまう。
シャーロッキアンを志すものがこれでいいのかと心の底にちょっと後ろめたさもあるが・・・何度もぐるぐる回って少々うんざりもしてきている。
このあたりの街路の写真を暫し撮って、それじゃぁかの「ストランド」といきましょう。正典のほとんどが「ストランド」誌に掲載され、その雑誌の表紙は色々な本で私たちも何度も目にしている。
丁度ストランドに立って、チャリングクロスの方からセント・メアリ・ル・ストランド教会の方を眺めた景色だ。あの景色を見たい!
ついでにストランドの「アデルフィ」劇場で今上演している「シカゴ」のチケットが手に入ったら
「こんなお天気の悪い日に見ちゃったほうがいいね。」
「それでいいよ。もう一時回ったし、じゃぁお昼は「シンプソン」で決まりのようだね。」
「アデルフィ」はほとんど「シンプソン」の斜め向かいにある。
人気のミュージカルは当日まず手に入らないので、行く前に早めに日本で買っておくか予約しておくようにとどの本にも書いてある。
だから以前来た時はミュージカル「キャッツ」を見たかったので、早々と日本で予約したのだった。
そして当日満席の劇場の最高にいい席に
「早く頼んでおいてよかった!」だったのだ。
だから今回もミュージカルが見たかった私は当然そのつもりだったのだけれど、今回の相棒は「音楽には全く興味なし!」と、言い放つ人だったので、
「ホームズってさ、必ずのように事件を解決すると音楽を聴きに行くよね。だからちょっとだけロンドンの音楽シーンを楽しもうよ。感じだけでもね?クラシックは駄目でもミュージカルならきっと楽しめるわよ。」
「じゃぁシカゴなら映画見たから内容がわかると思うからそれにして。当日券が買えたら見るってことで手を打つ。どう?」
だから私としては早めにチケットを入手したかったのだ。
で、窓口で今夜のチケットがあるか聞いたら「どの席を望むか?」
「ストールズかドレスサークルで席があれば二枚」
席表を見せてくれて「これでどうか?」
なんと二回席の一番前の満々中。これならグッドじゃない?
「OK!」
「今夜の席、二枚」と確認して支払う。
「八時開演」と窓口のお姉さんに念を押されて、私はニコニコ。
「土曜日の夜にこんなにいい席が空いているなんて余り人気が無いんじゃない?」
「そうかもね。もうロングランだしね。とにかく買えて私はラッキー!」
「じゃぁ、シンプソンよ。シンプソン・イン・ザ・ストランド!」
小さいけれど入り口の立派さ。ちょっと気おされるよね。何しろ女の二人ずれ。
ちょっと前って言ってもどのくらいだか?迄は女は入れなかったと聞く店だ。
ドァを入ってエントランスを行くと恰幅のいい白髪の男性が優雅に会釈して二人かと聞く。
「予約はしていないがランチを取りたい。」と言うとこれまた広い一階の部屋にゆったりと案内されて丁寧に席に座らせられた。
「ここまではOK!」
彼女の顔が笑っている。
見渡せば本当に広い部屋の中にチラホラと言う感じで七、八組の客。
ほとんどカップルの中に中国人観光客と思しき四人ずれ。
案内してくれた男性とメニューを持ってきた背の高いボーイにそれぞれメニューを見せられて注文を聞かれる。
飲み物は「アルコールはだめなのでお水・ノンガスースを。」まではよかったんだけど、ここでどう間違ったのか?
私は「ロースとビーフが食べたくてこの店に来たんです。」と、まずしゃべったのよ。
で、前菜の時に「何かと何かと・・・分からないわから無い・・・英語だもの」の合間にサーモンの何とかが聞き取れたので、「それは大好物よ多分!」と思った私は「サーモンをいただく。」と答えた。
するとまた「何とか何とか・・・・英語!」「ン?」
今度はボーイが彼女の方を向いて「何とか何とか・・・」彼女の返事は「ミィツゥ」
どうやらそれで注文が通ったみたい。
さぁ、サーモンがきました!
もうこれは盛り付けといい、お味といい
「おいしいじゃない!」
ここからが問題です。だって、どの本かで読んだんだけれど「目の前で大きな塊から好みのところを切り取ってくれる。」そうなんだもの。
これって困らない?どこを選べばいいの?
「ホームズ氏と同じところを!」って言ってみる?
「ジューシーで、ソフトでスペシャルエクセレントでっていうところが欲しいんですけど?」かしら?言える?
最悪「お薦めはどこ?」かな?
ガラガラガラと火のついているワゴン、(トロリー?)を目の前に引いてこられてどこを切るかと聞かれたら、結局は「最悪」の答え。
彼女はまた「ミィトウ」
だから私だけのせいじゃないってば!!!
で、目の前でさらさらさらさらと切り分けてお皿に六、七枚も乗せられていくお肉を見て私は目が点!
相棒の目もどんどん点になっていく。
すまーしたお兄さんがワゴンを引いて帰って行くのを見送って
「これ、ローストビーフ?」
またハモッた!
他のお兄さんが現れてジャガイモらしきものを載せていく。
「ヨークシャープディング?」
と彼女が聞いた。
「ポテト」
「ジャガイモじゃない?」
私はボーイさんとハモリそこなった。
「ヨークシャープディングが欲しいのか?」と聞かれて慌てて彼女は「ノウ!」
「だってさ、ローストビーフにはヨークシャープディングでしょ?だからそうかな?って思ったのよ。でもさ、これどうしたって、北海道の匂い!」
「ラムだよ。」
「ウン、間違いなく味もラムだ!」
「どこでどう間違ったのかな?私ちゃんとローストビーフが食べたいって言ったよね。」
「うん、それらしき事を言ってると思ったけど、通じてなかったね。」
「あの後の分からない部分が結局は鍵だったんだ?何て言ったんだろう?大体ね、メニューを渡して引っ込んでてくれればちゃんと検討して何とかなったのよ。なのにああくっ付いて説明されちゃったからわけわからなくなっちゃったのよ。」
私は勝手に店のせいにする。
「これは注文したものとは違う。」って言えたらいいのだけれど、自分が何を選んだのか自信が無いから言えないところが辛いね。
「がっかりジャン、何のために来たのよ。」
「私だけのせいではありまシェン。旦那さまに彼女の英語のひどいことって思いっきり貶せるじゃないの。そう思えば悪い体験じゃないでしょ?」
(ミィトゥしか言わなかった人は責任無いんですかね?)
アララ、私も血が上っている!
「あーぁ、またもう一回やり直さなくっちゃ。滞在中にもう一度来よう。」
「来れるかもね。でもどうかなぁ?雰囲気は分かったことだし、行きたいところはてんこ盛りだし?」
「だってさ、ホームズがラム食べたなんて思える?」
「一生に一度ぐらいは?!」
ホームズだってチキンのカレー煮とか庶民的だよ、そこそこにはね。
おいしくはなかったのだけれど、私はそこそこ食べました。英国の誇りに悪いからね。それに気は弱いし胃袋は強い!
でも思いっきりがっかりしている彼女は半分食べ散らかして止めました。おかげで後はコーヒーだけって言いやすかったけれどね。
「とりあえず次回があれば何とかできる自信はついたわよ。」
コーヒーで少し気を取り直した彼女に請合って、ようやく店内の装飾に目を向ける余裕が出来た。
重厚である。天井の高い豪華な部屋がきちんとした服装の紳士淑女で満たされたらどんなにか壮観だろうと思う。
上司と部下?と言う感じの男女が数組、夫婦?数組、旅行者?私たちを含めて二組?といった客がこれだけの広さに散らばっているとちょっと薄ら寒いけれど。
「思惑は大はずれしたけれど来たことは来たんだからね。」
気を取り直して、
「入り口を写真に取っておくわ。そこに立っていて。」と、彼女がカメラを向けたら、通りかかった初老の夫婦、供に銀髪の美しい方が「日本人なの?弟夫婦が岐阜に居るんですよ。写真撮ってあげましょう。」と、にこやかに撮ってくださった。
笑顔と「オールボワール」と「サンキュー、ヴェリィ・マッチ」が交差した。
「へ、ポワロ?」だからとても後味が柔らかくなったって言う気分。
「楽しい体験しちゃったな!」
その時はそう思ったのに、旅から帰って一月たってもまだ彼女のグチはシンプソンに尽きている。
自分が「北海道の匂い!」なんて科白を言ったことはすっかり忘れていたくせに、
「あんたがあんなにビビッて二度とこんなに緊張したくないなんて言わなかったら絶対もう一度行ったのに!やっぱり行くべきだったわよ!」ですって。
「えー、そんなこと言った覚えないわよー私。あなただって借りてきた猫のように小さい声でミィツウ!しか囁かなかったくせにー。私はもう一度やれると思うわって言ったじゃない?」
「でもすっごくあんた弱気な顔してたもん。気の毒で行こうって強いて言えなかったのよ。それに私だって北海道の匂いなんて言った覚えないわよ、失礼ね。」って、二人で言い合っている。
「だから又ロンドンへ行かなくちゃならないんじゃないの!」って?
いったいどれくらい私たち緊張していたんだろう?
二人して話していた事を覚えていないなんて?宙でしゃべっていたんだろうね、そう思うと全く可愛いもんだ!?
外へ出てセント・メアリ・ル・ストランド教会の写真を撮って、ぐるりとサボイホテルの周りを回って、ウォータールー橋を横目にヴィクトリア・エンバンクメントに出た。
「オレンジの種5つ」で、オープンショーがテムズ川に投げ込まれたところ。
あの頃の霧に閉ざされたエンバンクメントはこんなに安心して歩けるようなところではなかったのだろう。今ではここからテムズ川遊覧をする観光客で賑わっている。
かって来た時、私は友人とここからディナー・クルーズを楽しんだし、彼女もお嬢さんと来た時にここから遊覧したと言っていた。クレオパトラの方尖塔を通り過ぎハンガーフォード橋に上がりテムズ川を暫し眺める。さっきの雨が嘘のような晴天に変わり遠くまで見通すことが出来て、霧の町・ロンドンの面影は毛一筋ほども窺い知れない。
川向こうには新しいロンドンの輝きがある。振り返れば十九世紀からのロンドンの象徴があちこちに変わらなく聳えている。
つくづく地震の無い町はいいなぁと思う。
地震といえば、バスの中でANAの係員さんが「先日小さな地震があったんですよ。皆地震を知らないからどこかでテロの爆弾がとか、ガス管が破裂したんだとか騒いでましたね。」と言っていた。
さぁ、一つ目の駅チャリング・クロスだ。
橋から直接通路で駅の裏から構内へ入るという形になった。
私のカウントでは九冊以上に1864年に建設されたこの駅が出てくる。
何ていったってホームズの「あの人・アイリーン・アドラー」がここから新婚旅行に大陸へと出発したのだ。
「アベ農場」ではマーシャムへ、「金縁の鼻眼鏡」ではチャタムへワトソンと出発し、「第二の汚点」で二重生活をする夫ルーカスを殺害したフールネイ夫人が暴れたと言うのもこの駅だし、「空家事件」ではホームズはこの駅でマシューズという男に左の犬歯をへし折られたと言っている。
始発駅とか終着駅とか言う駅は魅力がある。車止めのあるホームの造り、列車が出て行く方の明るい広がりが旅への期待を掻き立てる。
構内をうろつき、ホームから出て行く列車を眺め、「パリの駅と似通っているよねぇ。」などと話し、写真を撮って駅前へ出る。
幾ら模造だとは言ってもやはりチャリング・クロスに来たからにはチャリング・クロスを写真に収めなくちゃね。
「チャリング・クロス・ホテルの字も入った?」
「ブルース・パディントン設計書」で、ホームズはオーバ-スタインをこのホテルに罠を仕掛けて呼び寄せているのだから、ホテルの方もおろそかには出来ない。
「あれ?チャリング・クロス・ホテルじゃないよ。」
「シスル・ホテルだ。いつ変わったんだろう?」
「それとも本来シスル・ホテルだったのをわざと物語では変えて使ったのだろうか?どっちにしても現場はこのホテルのはずだよ。」
さて、どっちだろう?ホテルの経営や系列が変わることはそう珍しいことじゃないしねと、入り口まで行ってみたら「シスル・チャリング・クロス・ホテル」となっていた。
上にはシスル・ホテルとしか書いてなかったので一瞬慌てたのだ。
「折角ここに居るんだからもう一度スコットランド・ヤードのプレートを探そう。このままじゃどうもすっきりしない。」
と言い出して、グレート・スコットランド・ヤードと、スコットランド・プレイスと、ホワイト・ホール・プレイスの間の三角点をまたぐるぐる。
この所為で、ここをクリアできなかったために、もう一つ肝心のニュー・スコットランド・ヤード(1890年から1967年まで)、この先にあるホワイトホール街とウェストミンスター駅北側テムズ川畔にある方の建物を見損なってしまったのだ。
もっとも
「ホームズはミュージカルなんか見てないよ。」
と言う彼女に今晩譲歩してもらった手前、強くはいえない私でありました!
1903年サセックス丘陵へ引退したのだから、ホームズは後のほうのニュー・スコットランド・ヤードへもやはり13年間縁があったはずなのだ。
同じ位の重みがあると思うんだけどなぁ…とは私の小さなボヤキだった。
帰ってきてから一週間程経った頃、彼女からメールが。
「ニュー・スコットランド・ヤード見損なったよ!」
やっと気付いて下さりましたかと、思ったことでした。
そうだ!今度彼女が
「あんたのせいでローストビーフ…」って言ったら、
「あんたのせいでニュー・スコットランド・ヤード!」って言ってやろうじゃないの!!
青プレートはとうとう諦め、次はトラファルガー広場からセント・マーチン・イン・ザ・フィールド教会を通りナショナル・ポートレート・ギャラリー、ナショナル・ギャラリーの裏をぐるりと回ってヘイマーケットへ。
「隠居絵の具屋」に出てくるヘイマーケット劇場があるはずなのだ。
丁度三越の裏側に当たるところに大きな工事現場が大きなテントに隠されていたけれど、あそこがそうじゃないかなぁ。
そのテントには大きくヘイ(麦わら)を摘んで行き来する馬車の後ろに立派な劇場の絵が描かれていたから。
というわけで万事アバウトのきらいのある私はそこをそうだと思うことに決めた。絶対そうだと思う。
ヘイマーケットとは麦わらの集積取引場所のことだそうだ。
ここでまたさらさらと音もなく雨。
「もう遠歩きしないし、丁度雨だし三越で頼まれものの買物済ましちゃうね。」
彼女がウインブルドングッズを見ている間に私はバーゲンでごった返す店の中をうろつきまわって、我が家の三人の男どもにそれぞれ一本ずつのネクタイを見繕った。
そして「本日はバーバリーのバックが多数入荷しておりま~す。」の大声につられて、お嫁さん(これは死語だと息子に釘は刺されているんだけどね)にバーバリーの小さなバックを手に入れて、
「私もこれで土産は済んだわ。」
三越を出るともう晴れている。
本当にいい加減な天気。
「アデルフィー」へ戻る途中まだ時間があるので、チャリング・クロス駅の前の美しい建物(通称?胡椒壷)の裏手にあったチャリング・クロス病院の後を回る。彼女はまだここに有るはずだと言うが、私の読んだ何かにホームズ当時にはここのチャンドス・プレイスにあった病院は1973年クラム・パレス・ロードに移転したとなっていた。
ともかくチャンドス・プレイスのこの通りにあった病院へ「高名の依頼人」で、襲撃されたホームズが担ぎこまれているし、「バスカヴィル家の犬」の気のいいモーティマー医師はここで働いていたのだ。 
だから病院は移転していても、この通りを歩く価値は十分にある。
「そろそろ何か軽くお腹に入れていった方がいいと思うわ。」
「そうだね、余りお腹がすいていないけど、終わるとずいぶん遅くなるからね。」
というわけで「アデルフィー」の向かいの小さなお店でサンドイッチとカフェ・ラ・テの軽食。
劇場へ行くとグッドタイミングで席への案内が始まった。
ここはそう大きな劇場では無い。本当に二階席の一番前の真ん中。
「ほらずいぶん空いているじゃないの。」
と言っていたのが、十分前になるとちゃんと満席になった。週末ではあるし、きっと半値になった当日券をハーフ・プライス・チケット・ブースに並んで買った人とかも多いのかもしれない。
でもそんなこと時間の制約のある観光客には出来ないものね。
シンプルでスピーディで、活きのいい舞台を私は本当に楽しんだ。音楽も動きもとてもいい!それにしても、女性陣より男性陣の方が凄く魅力的に見えたなぁ?
「いやー堪能した、楽しかったぁ!!!」と、幕が下りて私。
「ホント、思っていた以上に楽しめたね。うんよかったよ。」と、彼女も。
少々疲れて無口になった二人はそれでも
「歩いて帰ろ、折角のロンドン」
約30分の道のりを歩いてホテルに帰りついたのでありました。
明日はカンタベリー。大急ぎで風呂に入り記録をつけて寝る。十分に盛りだくさんの一日だった。
でもあぁ、大事な一日が終わってしまった!

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