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シャーロキアンを目指す旅⑧

7日目 私の最後の冒険!

7月1日(木)
朝食後、貴重品を受け取って荷造り完了。
チェックアウトを済ませて、ボーイさんに荷物を午後三時ごろまで預かって欲しいと頼むと、ものすごい笑顔で引き受けてくれた。
余りの笑顔に「私たちの帰るのがそんなに嬉しいんかい?」と、帰るのが残念でたまらない私は突っ込みたいくらい。
それにしても本当に気持ちの良い滞在だった。どっちを向いても笑顔で丁寧だったもの。
たった一つの例外が朝食堂の黒人のマネージャーさん?とうとう最後の日まで一度も笑顔を見せなかったなぁ。
さぁ、最後のロンドンウォーク。楽しくいきましょう。
ホテルを出て横手のウィグモァ街を歩き、オーチャード街を下り、オックスフォード街へ出る。マーブル・アーチの方まで歩く途中のバス停からバスに乗ってキングス・クロス駅を目指す。
そう、最後の一日は残りの駅めぐりに取ってあったのだ。ロンドンの北に位置するキングス・クロス駅、セント・パンクラス駅、ユーストン駅、それにぽつんと離れたパディントン駅まで行けたらいいな。
バスでオックスフォード街からガワー街、ユーストン街と辿って、キングス・クロス駅まで行く。

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〈写真 キングス・クロス駅〉

実際のところホームズは余りキングス・クロス駅は使っていない。ここはグレート・ノーザン鉄道の始発駅で「スリー・クォーターの失踪」で一度ケンブリッジに出発している。今はむしろ「ハリー・ポッター」のホグワース魔法学校への出発駅として、観光客の人気を集めている駅と言ったほうがいいかもしれない。
私たちも勿論「ハリー・ポッター」を楽しく読んだので、9と4分の3プラットホームには興味がある。
だから駅舎に入ってホームを一から順に見て言ったらなんと七で終わり。
「あれ?」
仕方なく、駅員さんに
「ハリー・ポッターのホームはどこかしら?」と聞いてしまった。
物慣れた感じで駅員さんは丁寧に教えてくれた。七番線を途中まで行って左に折れる道を見つけて曲がると、また何本ものホームが現れた。その九番線の煉瓦の壁に9と3/4の思わず笑っちゃうくらい大きな表示があった!
だから壁に向かって手を差し入れ、その壁に入っていくつもりで写真を撮ってもらった。その様子をまた外人の観光客が撮って行く。
「おい、東洋人もハリーを知っているみたいだぜ。」なんてね?
見ていると少年が一人その壁にわざとぶつかって見せてから9番線のホームに走って行った。結構皆楽しんでいるのね。
駅を出て直ぐ隣のセント・パンクラス駅に向かう。
駅が二つ並んでいる所為かその道の混んでいたこと。
セント・パンクラス駅は赤レンガのまるで城のような建物だった。時計塔まで聳えていて、こちらこそホグワースに向かう列車の始発駅といった感じ。
赤レンガの描くカーブが美しい。だけれどいやな予感がするのはここも工事中で、テントに隠れたところから見え隠れするのは近代的なビルのそれなのだ。
少なくとも横には近代的な明るい硝子多用の駅舎がもう出来上がっている。だからここのホームは思いっきり明るい。
赤レンガの部分は付属するセント・パンクラス・ホテルなのかもしれない。この新旧二つを繋いで、果たしてどんな建物が出現するのだろう?過去と現在の見事な融解?
ものすごく面白い複合駅舎が出現するのを次回の楽しみにしておこうかしら。
でも願わくば1860年当初の雰囲気をこれ以上失いませんように。
この駅は1863年にミッドランド鉄道の終着駅として出来たもので、ホームズが事件の旅にここから出発したと言う記録は無い。
「ショスコム荘」で「セント・パンクラス事件」というのに携わったと言う言及と、「花婿失踪事件」でこの駅に隣接するセント・パンクラス・ホテルでメアリ・サザーランドが披露宴を開くはずだったいう記述があるだけだ。披露宴の後この駅から新婚旅行にでも出かけるつもりだったろうに、この事件の結末は私にはちょっと不満が残っている。
ホズマー・エンジェルに成りすました義父を、しょうの無い母親も含めてもっとしっかり懲らしめる方法は無かったものか。
娘の心をあんなにも傷つけたのだから、笑い事じゃない!
だからと言うわけでもないが工事中だったし、駅前のユーストン街をユーストン駅の方に進むことにした。
この辺りのセント・セィヴィア教会でそのサザーランド嬢は結婚式を挙げる予定だったと言っているし、その教会も見付かるかな?
途中でユーストン街に面している教会を一つ見つけた。セント・パンクラス・パリッシュ・チャーチだ。前面は女性像を模った柱廊が立ち並んだ古雅な教会で、ピンクのタチアオイの群れに取り巻かれていたが、妙に荒れ果てた感じだった。現在使われているのだろうか?
セント・セイヴィア教会という名の教会は現実にどこかに存在するらしいのだが、「この通りには無いね。」と言っているうちに、ユーストン駅に到着。この駅は完全に新しい箱のような駅舎になっていた。
だからホームズ当時の様子は全く想像できない。しかし本当はこの駅は1837年にロンドン・バーミンガム鉄道の終着駅として出来た、ロンドン最古の駅だと聞いている。
この駅からホームズは「白面の兵士」ではベッドフォードへ、「プライオリ・スクール」ではダービシャーと出かけたし、「緋色の研究」ではドレッパーとスタンガスンがリヴァプール行きにのる予定だった。
しかし近代的な?駅舎には残念ながら余り心を惹かれなかった。
「さて、次が問題。」
「残りのパディントン駅へ向かうか、昨日決めていたテンプルに向かうか、どうする?」
パディントン駅は何ていったってあの大作「バスカヴィル家の犬」の出発駅なのだから迷ってしまう。
しかし今日は3時までにホテルに帰っていなければならない。帰りの飛行機は19時35分ヒースロー発なのだから、自分で行動できればまだもう少し時間はあるはずなのだが、ここが辛いところで、午後の3時過ぎにはホテルでANAの係員さんに拾ってもらわなければならない。
「最後のお昼をシャーロック・ホームズ・パブで取りたいね。」
というのが決め手になって、ストランドの方に向かうことにした。
お昼を取ってしまうということは、もうパディントン駅はなくなったということだ。
あの駅まで行けば、エッジウェア街近辺にもまだ色々歩きたいところがあるので、テンプルを諦めねばならない。
却ってあの方面が纏まってお預けになったのは次回の予定が組みやすいかもしれない、などと自分を慰める。
ほらあの辺りには余禄としてリトル・ベニスもあるじゃない。あの運河行でのんびりという時間だって欲しいことだし。
「ウン、次回に取っておこう。」
「お昼を抜くっていう手もあるんだけどなぁ。」
それでも未練はあるが、花より団子。
それになんてったって、まだシャーロック・ホームズ・パブには足を踏み入れていないのだから。
シャーロック・ホームズ・ミュージアムを見ちゃったからいいともいえるのだが、見なかったとなると、どうせずうっと気になると言うことはわかっている。
積み残した物がまだまだいっぱいあるということがもう十分わかっているので、ここは潔く最後のロンドンの昼食をゆったり取ろうじゃありませんか!
ユーストン駅前の道をラッセル・スクェアまで行ってバスに乗ろうと思っていたらその手前でオルドウィッチ行きのバスが来たのが見えたので急いで飛び乗った。
オルドウィッチからテンプルは近い。グッドタイミングだ。
「今回の旅は何から何までついてるね。」
自画自賛したのはちょっと早すぎたかも。
綺麗な弧を描くオルドウィッチの丁度弧の天辺でバスを降りれば直ぐ威厳漂う王立裁判所、テンプル・バーのところに出る。
フリート街に面した小さな木製のドァ、これがインナー・テンプル・ゲートで、それを開けて中に入ると細い路地が続いている。
私たちはこれでもうイギリスでも最も権威ある法学院の中にいるのだ。
しかしこの中は全く普通の町並みを見せていた。石畳の道、並木、花壇、黒い煉瓦や赤い煉瓦の建物、道を行く人々。
ホームズでは「ボヘミァの醜聞」のアイリーン・アドラーが結婚した相手、弁護士ゴドフリー・ノートンの事務所がこの中にあったと、一回だけ出てくる。
道成りに歩いていくとぽかっと開けたのがテンプル教会の前の広場だった。古風で、質素でどっしりしていて思っていたよりも小さな教会だった。外見は教会と言うより小さな要塞といった方が合っているかも知れない。
テンプル騎士団の本拠地なのだからもっと偉大な雰囲気を漂わせていると思っていた。
この騎士団から私が連想するのはリチャード獅子心王、アイバンホー、ロビン・フッドなのだから。
シンプルな円形の身廊の床には13世紀の騎士が眠っている。十字軍から帰ってきた騎士なのだろうか?周りを取り囲むステンドグラスと祭壇が教会である事を教えてくれる。そのまま過去がここに閉じ込められているようだ。
子どもの頃の私をわくわくさせてくれた騎士の方々への供養、気持ちばかり寄付を弾みました。

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〈写真 テンプル教会〉

教会を出てまた適当にぶらぶら歩いて行ったらミドル・テンプルの出口に出てしまった。
インナー・テンプル・ガーデンの方まで行ってみたかったのだが失敗。だからちょっと大回りになってしまったけれど、
「五年前には工事中だったミレニアム橋が出来ているはずなので、ちょっと見たいわ。」
私のわがままで寄り道追加。ホテルの可愛いフロントさんにも「見るわ。」と言っちゃったしね。
ブラックフライァー橋まで行ってテムズの川岸を歩いていくと銀色の橋が光っていた。橋の上に立つと川下にはタワーブリッジとロンドン塔が見え、川上にはブラックフライァー橋の黒と赤と金の鮮やかな重そうな橋の向こうにチャリング・クロス駅。正面にはモダーン・テートの四角い箱に高い煙突、振り返ればセント・ポール寺院ががっちりと立ちはだかっている。橋そのものはほんの僅かな風にも揺らぎそうな銀色細工の繊細さ。橋の上に立ってしまうと時間を忘れる。ずうっとこの川風に吹かれていたい。
しかしもう時間が迫っていた。お昼も食べるつもりなら急がねばならない。
フリート街に戻り、今はトワイニングよりフォートナム・メイソンなんかの方が人気かも知れないし、実際フオートナム・メーソンも1700年ごろの創業のはずなのだが、
「今回の旅はやっぱりトワイニングね?」
「なぜか東インド会社って感じがするのよ。」
トワイニングの店先には創業1706年の看板がぶら下がっている。東インド会社は1600年ごろから1850年代頃までが盛んだったはずで、「四つの署名」のアグラの財宝の持ち主・ラジャーのところでこの東インド会社の名前が見える。
なんとなく「トワイニングはそのイメージよ。」というのは日本で他の店より比較的早くなじみになったからだけの事かもしれない。
そのトワイニングで一番新しいブレンドだという「レディ・グレィ」など紅茶を少し土産に買い込んだ。
もう何度目になるのか、ストランドを今はすたこらわき目もくれず?ノーサンバーランド街へまっしぐら。
シャーロック・ホームズ・パブに着いたのはもう1時を回っていた。二階のホームズの再現部屋のまん前の席に着いて、私は最後のギネスにまたしてものロースト・ビーフ、彼女はオレンジジュースにロースト・チキン。

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〈写真 最後の食事〉

「もう絶対ロンドンではシンプソンのを食べるまでロースト・ビーフは食べないんだ。それに絶対チキンの方が無難だよ。」
「あら、色々食べておけばシンプソンのがどんなに素敵か分かるじゃない?」
と言うわけで、私は始めてヨークシャー・プディングを賞味。
他にも数組の観光客がいて、私たちの絶好のテーブルの横へ来ては写真を撮っていく。
三人の子ども連れのアメリカ人のご一家が写真を撮りに来た時
「皆さんを撮ってあげましょうか?」と申し出たら凄く喜んでくださって、
「あなたたちも撮ってあげましょう。ホームズに興味があるの?」
決まっているでしょう!
「さぁ、もう帰らなくちゃ。今出ればゆっくりリージェント街かボンド街を歩いて帰る時間があるよ。」
と、店を出たものの、トラファルガー広場で私はなんかふとひらめいたのよね。
いやな予感と言うか、不意に気になってカバンの中を探ったら「お財布が無い!」
「あるわよ。良く見なさいよ。今日はあんた自分の財布出したのトワイニングだけよ。ちゃんとしまったわよ。」
「でもないのよ。さっきのパブだわ。」
「財布出した?私が共通財布から払ったんだから、あんた出していないわよ。」
そうきっぱり言われても無い物はない。買物をした時にはあったし…後は…?
「時間あるしパブ探してくるわ。」
「幾ら残っていたの?」
財布はいつも3つに分けて持っているから大して入ってはいないけれど、
「一万円ぐらいかな?」
「じゃ、諦めなさい、そのくらい。」
一緒に行ってくれる気配のさらさら無い彼女に「じゃァ、先に行っていて。近いんだもの、それに折角ここまで良い旅だったから、締めくくりも良くしなくっちゃ。ひとっ走りしてくるわ。バスでもタクシーでも時間までには帰るから。」と、そこで別れた。
急ぎ足でパブに戻り二階へ駆け上がって、ウェーターのお兄ちゃんに「財布を落としたみたいなんだけれど、テーブルの辺り探させてくれる?」と聞いたら、にっこりとして「どうぞ」とばかりカモンのジェスチャー。
先ほどのテーブルに戻ったら、使わなかった私の隣の席の前に綺麗にたたんで突っ立っているナプキンの陰にちゃんと私のお財布が鎮座していた。
にっこりして財布を振って見せたら、おにいちゃんも親指を突き出してポーズ。
「サンキュウ!!!」
そうだ!
「チップの小銭が少し足りないかな?」
共通財布を彼女が覗き込んだ時に
「私まだ小銭が大分残っているわよ。」
足してあげるつもりでお財布を出したのに、彼女が数えている間テーブルに置いて、お金が結局足りたのでそのまましまい忘れてしまったのだ、という事を遅ればせに思い出した。ヤレヤレ冷や汗。
時計を見て、チャリング・クロスからバスで帰った方が無難だなと思ったのでバス停の方へ行くと、丁度バスが来たので飛び乗ったら、殆ど彼女と同時にホテルに着いた。
「今回の旅は何から何までついているね!」と思ったのがちょっと早すぎたのね。
「今、言うべきだったわ!」
カバンを受け取ってトワイニングの紅茶を詰め込んだらお迎えが来て、我等のオリジナル・シャーロック・ホームズ・ツァーはここで終了。
思いっきりホームズとワトソンのファンをできたけれど、シャーロッキアンやホーメジアンになる敷居は思ったより高かった。
ホームズたちの足跡を辿って沢山の喜びを感じはしたが、ホームズのここをもっと掘り下げてみようとか、ここの矛盾を調べてみようなんて私は一度も思わなかった。
興味は山ほどあったけれど、それは楽しむための楽しみで、これから先の研究課題を見つけたわけではなかった。
でも確かに本を読む楽しみにとても大きなプラス・アルファを付け加えることは出来た。これからはどんな一行にも私のまぶたの裏には具体的な景色が湧き上がってくることだろう。
後は普通の観光客のおばさんになっておとなしく日本へ帰ったのだ。
飛行機の中で彼女
「ね、カフェ・ロワイヤルとクライテリオン・バー入りそこなったよ!」
いえいえ、今は行けなかったところには目をつぶって、行けたところを楽しく反芻して帰りましょうよ。
反省会は後のお楽しみ、東京のどこかでアフタヌーン・ティをしながらね。

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